【映像科】黒澤明と初夏講習会 – 感覚テストにおける場所の話

映像科です。

5月の自粛期間は初の本格的なオンライン授業となりました。映像科は金土日の授業なので、金曜日の授業開始までに毎週一本指定の映画を観てもらい、金曜の授業でそれについてディスカッションするという試みをしてみました。

すると、みんなアトリエにいる時よりリラックスして発言できている印象でした。自宅だから?みんな画面を向いていて顔が見えるから?

色々と理由はありそうですが、みんなの意見を共有しつつ、映画を分析的に観る習慣のきっかけになればいいと思います。

鑑賞した映画のうちの一本に日本映画の金字塔、黒澤明監督の『羅生門』があります。『羅生門』は1950年の作品で、芥川龍之介の『藪の中』を原作とし、ひとつの事件を巡る四人の証言による回想によって構成されています。四人の証言が食い違っており、何が真実なのかわからず、観客は文字通り「藪の中」に置かれる状態です。それを映画として描くと、言葉では描ききれない人物や場所のリアリティが画面越しに伝わってきて、パラレルワールドのような面白みが生まれます。役者の汗、息遣い、筋肉の動き、肌に止まる虫、木々のゆらめき、陽の光、止むことのない雨…

 

 

『羅生門』は約一時間半の映画ですが、場所(シーン)はなんと門の下、山の中、検非違使庁 (取り調べの場)、の3箇所しかありません。しかし、飽きることなく観ることができるのは、それぞれの場所を濃密に描いている=演出しているからです。例えば当時はロケにおけるライティングなどが容易ではなかったので、山中のシーンでは多くの鏡を使って光を補い役者に当てていたり、30メートルもある羅生門のセットを作り込んだり、雨のシーンでは水に墨を混ぜて降らせたりと、CGのない時代に工夫と作り込みによって密度を高め、監督のイメージを画面に反映させていたわけですね。

 

と前置きが長くなりましたが、なにが言いたいかというと、映画やアニメなどの映像作品にとって「場所」は重要だということです。そしてそれは武蔵野美術大学映像学科の入試「感覚テスト」にもそのまま当てはまります。

ここで昨年度入試で実際に作られた感覚テストを見てみましょう。

これは入試で実質満点となる145点をとった作品です。

大雪によって屋根の潰れた牛舎の前で、中にいるであろう父へのお弁当のおにぎりを手に佇む。物語としてはそれだけの状況なのです。しかし、そのシンプルな筋書きを映像的に見せているのは、場所とそこにある身体を丁寧に描いた情景描写に他なりません。白く一見希薄な印象を受ける雪ですが、まとまった量になればずっしりと重く、この作品のように屋根を潰すほどの暴力性を秘めています。そういった雪の性質が持つギャップが絵によって見事に表現されており、文章では作者の実家が酪農を営んでいることもあって、暗い牛舎の中の牛の様子や聞こえる鳴き声などの描写に実在感が込められているのです。

 

そのように感覚テストのキーポイントともいえる場所の設定、そして描写について重点的に学ぼうというのが、今月始動するonline初夏【しょか】講習会になります!

映像科の初夏講習は、感覚テストを重点的に学ぶ3コース(Ⅰ〜Ⅲ期) +クリエイション資質型入試対策の1コース(Ⅳ期)の計4コース。オンライン授業なので遠距離でも大丈夫ですし、17:30-20:30の時間帯なので高校があっても受講可能です。基本的には初心者向けのコースとなりますので、丁寧にじっくりとやっていきます。対策は早めが肝心です!

 

詳細はこちらから。

映像科 online 初夏【しょか】講習会

2020年6月4日(木)〔映像