彫刻科【現役芸大合格者に聞く! Part2!!】

〜 芦澤 まりや(2020年度 藝大現役合格者) × 秋吉 怜(すいどーばた 夜間部講師)〜

                

夜間部で1年間勉強し、見事今年 東京藝術大学に現役合格した芦澤まりやさんにインタビューしました!
(新型コロナウイルス感染症 対策のために、ビデオ通話にて行いました)

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秋吉(以下、秋):あらためて、合格おめでとうございます!さっそくですが、まずは芦澤さんが美術・彫刻を志すきっかけとなったことを教えてください。

芦澤(以下、芦):もともとモノを作ることや絵を描くことが好きだったんですが、以前好きな作家のRadyさんの展示を観に行った時に同い年の子がRadyさんとお話してる中で「君は藝大現役合格しそう。」と言われていて、それを聞いて私も美大受験を考え始めました。
まだその時は藝大志望というわけでなくモノを作れる環境に行きたいなと思っていて、高校2年生の春から地元の予備校に通い始めました。初めは油画科に行こうと考えていて、多摩美の受験などを考えていました。
ただ立体物を作りたかったので、そのためにはやはり解剖学の知識や立体を把握する感覚が必要だと思い、それを学べる彫刻にしました。

秋:なるほど。やりたい事が明確にあって、そのために彫刻的な力が必要だったということですね。受験に必要な実技は高校2年生から始めたんですね?

芦:高2の4月から日曜日だけ通っていました。油画だったり平面構成だったり、やりたいことを選択して自由にやるコースで、デッサンや油画を描いていました。そこで、教務長の方に「芦澤は現役で藝大合格行けると思う。」と言われたことがきっかけて藝大に行きたいと思うようになりました。
ただ、その予備校には彫刻のコースがなかったため、東京の予備校に通うことにしました。

高校2年生の冬に地元の予備校で描いたデッサン

秋:すいどーばた(以下、どばた)を選んだ理由はありますか?

芦:家から一番近かったというのもあるのですが、決定的だったのはどばたの合格実績でした!毎年ひとりは現役合格者がいたので、どばたの夜間部で一番になれば現役合格できると思いました。

秋:芦澤さんが最初にどばたに来たのは高2の時の冬季講習でしたね。初めてのどばたの印象はどうでしたか?

芦:もともといた地元の予備校が小規模だったので、まず人数の多さにビックリしました!受験間近でうまい浪人生や実力者が多く、そういった中でやるのも初めてでした。すごく刺激を受けたし、レベルの高い環境でやることがとても楽しかったです!

高校2年生の冬季講習での初塑造

秋:楽しかったんですね。

芦:はい。自分のレベルがまだまだ低いなとも感じましたが、どばたで1年勉強すれば絶対うまくなる!と思えたし、その1年後がすごく楽しみになって興奮しました!笑

秋:すごい闘志ですねー笑
高3の4月からいよいよどばたの夜間部に通い始めたわけですが、芦澤さんは家・高校からどばたまでかなり遠かったと思うのですが、、?

芦:家からは1時間半。高校からは2時間です。

秋:遠いですねーー!学校と予備校の両立は大変じゃなかったですか?

芦:最初の3か月が体力的にすごく大変でした。。高校の用事で遅刻してしまうこともあり、みんなより実技の時間が短くなってしまうなぁ、という不安もありました。
3か月くらい経ってだいぶその生活にも慣れたし、遅刻もどうしようもないことなので、その分どばたにいる間は集中して、毎回の課題で自分の実力を出し切ることを心掛けていました。

秋:たしかに毎課題すごく真面目に取り組んでいる姿が印象的でした!
この1年間はどのように考えて過ごしていましたか?短期・中期的に定めていた目標などあれば教えてください。

芦:4月は、まわりの夜間部のみんなも自分と同じで始めたての頃だったので、まずはこの中で差をつけて1番になってやる!と思っていました。制作中も自分が1番うまいな?とか思ってやってました笑。なんか性格悪そう(汗

秋:いやいや笑。受験は周りとの戦いだから、すごく大事なことだと思いますよ!

芦:でも、、1学期末の夜間部のコンクールでデッサンが5位くらいで、、

夜間部の1学期末コンクールのデッサン

秋:1番じゃなかったんですね笑

芦:はい笑笑。ただその時はブルータスの顔側の逆光で難しい位置だったので、普段ならもっと描けたなって思って、次だ次だ!ていう感じで切り替えました。
夏季講習は浪人生と一緒に制作するので、せめてこの上手い人たちと同じレベルで戦えるようにならないとと思ってやっていました。

秋:具体的に心掛けていたことは何かありますか?

芦:常にうまい人の近くで制作するようにして、その実技を見て真似して盗んでました。
それで、、夏季講習最後のコンクールでB゜取れたんです!!(※B゜はどばたが独自につけているランクで藝大1次合格を表します)

秋:おぉ〜。しっかり自分の目標を達成したわけですね?。

芦:2学期始まってからは、もう直ぐに冬季講習でそのあと試験だと思って、気を抜かずにやっていました。彫刻1の授業も2学期から始まったので、その勉強も兼ねて休みの日に展示を観に行ったりしました。
冬季講習や入試直前講習では昼夜合わせて1日9h制作している毎日だったので、とにかく睡眠をとってしっかり休むようにしていました。

秋:休む時は休んで、どばたでは集中して制作するってわけですね。

芦:はい。とにかくどばたでの毎日の制作を大事にしていました。でも休日は家で趣味の絵を描いたりして結構遊んでいました。結構リラックスはしていたのかなと思います。

秋:では、周りと比べて焦ってしまうなんてこともなかったんですね。

芦:そうですね。でも!年明けの芸大模試で1次落ちした時はさすがに焦りました。。
落ちるかなとも少し思ったんですけど、落ちるそぶりをしないみたいな、、

秋:落ちるそぶりをしない、、? それはなぜですか?

芦:そこで今年はダメだ〜とか言葉にすると本当になっちゃうと思ったんです。

秋:言霊ですね。芸大模試で1次落ちしたことで、何かやり方を変えたりはしたんですか?

芦:講師の方がよく言う、1年間の中で上手くいく時期とスランプの繰り返しみたいな浮き沈みが、わたしはないなと思っていて。。毎日、昨日よりもいい実技をしていれば絶対に下手になることはないなと。1年かけて緩やかな坂を上っていくようなイメージなんです。だから、その坂の頂上に藝大合格があって、描いた軌道上にいまの時期の自分がちゃんといるかどうかをいつも考えていました。
それで模試で1次落ちした時は、いま自分が想像している軌道のままだと藝大落ちちゃうんじゃないかって思って「また来年もどばたで自由制作するのかなぁ」とか考えちゃいました笑。
でも入直になり試験が近づいてくることで、合格する軌道がより鮮明に見えてきて、2月の中頃にははっきりと受かるビジョンが見えていました。

秋:すごく面白い考え方と精神論ですね〜!!。
では、受験当日の心境や手応えはどうでしたか?

芦:4日前に西島先生が仰っていた「これから試験本番を含めて残り3枚デッサンを描きます。今日よりも明日、明日よりも明後日、明後日よりも明々後日の試験当日までどんどん伸びていきますからね。」というのを聞いて、さっき言った合格までずっと成長していく自分のビジョンにも合致していて、1次試験では前日に描いたデッサンよりもいいものを描くようにしました。

受験前日に描いたデッサン

秋:緊張はしましたか?

芦:もともと緊張しまくるタイプので、前日からガチガチに緊張していました笑。でもそれはどんなものが出題されるのか分からないことに対しての緊張だったので、試験室に入って出題を見た瞬間に、この出題に対して自分がどうすればいいのか分かったので、緊張はほぐれました。だから、描いているときは普段のどばたのコンクールと同じような感じでした。

秋:冷静に自分の実技ができたんですね。2次試験はどうでした?

芦:2次試験もどんな出題がされるんだろうと思って緊張していましたが、1次試験と同じで出題を見た時点でどうすればいいのかは分かったので、冷静にやりました。

秋:彫刻1は試験終えてどばたに帰ってきた時に自信満々でしたね笑。
普段の授業でも彫刻1は得意そうな感じがしたのですが、、どうですか?

芦:彫刻1は、コンクールで出来上がってみて周りと比べると全然ダメだなぁと感じることがあっても結果は良かったりして、あれ?これがいいの?自分のダメだって思ったものが評価されるんだと思って少しギャップを感じました。

秋:へぇー。そのギャップはどうやって埋めていきましたか?

芦:自分がダメだと思っていても評価されることが多かったので、このままでいけるのかなとは考えていました。それに、ダメだと思うのは完成して周りと比べた時で、作っているときはいつも楽しんでいました。
作っているときに“いたずらごころ”みたいなものを入れることがあるんです。これ見た人はきっとビックリするだろうな〜!ワクワクするだろうな〜!て考えながら、悪だくみをしながらって感じで作るんです。
そうやって、楽しみながら作れているときはコンクールでもいい評価を貰えていたので、試験でもその“いたずらごころ”みたいなものを大事にしました。

秋:“いたずらごころ”か〜。いいですね〜〜。塑造の試験はどうでしたか?

芦:試験で出たアバタをちょうど前々日に作っていたんです。だから、前々日に作ったアバタよりもいいものを作ろうという意識でやりました。それもデッサンでお話しした、“合格への軌道”に乗って、常に1番いいものを作るという意識です。

秋:なるほど。さっき言っていた“合格への軌道”をとにかく大事にしていたんですね!
ちなみに1年通してやった中でターニングポイントとなったようなことはありますか?

芦:基本的に軌道に乗って緩やかに伸びていっていた実感なので、ターニングポイントとはちょっと違うかもしれないんですけど、夏季講習で作った老人首像です。
首像を作るのはもともと好きだったんですけど、細部の作りこみに課題を感じていて。。それで上手い浪人生の隣で作って、描写の仕方なんかを見て真似してみてたらうまくいって、粘土の初Webアップになりました!自分の中で、もともと好きだった首像が得意なものに変わった瞬間でした!

夏季講習でつくった老人首像

こちらは入直でつくった友人像

秋:逆に1年の中で苦しんだことや辛かったことはありますか?

芦:実技で苦しんだことや辛かったことはあんまりないんです!毎日やっていて、昨日よりもいいものを作っていれば成長し続けられるので、沈むことは全然なかったです。
ただし、その「昨日よりもいいものを作る」ということは強く意識していました。昨日やってしまった失敗を繰り返さないことや、講評で指摘されたことを修正するようにしていました。
それと逆に褒められたことも大事にしていました。講評ノートには必ずダメだったことと褒められたことの両方を書いていました。講評では、自分の狙い通りに上手くいって評価されることと、無意識にやったことが褒められる場合の2つがあったのですが、無意識にできていたことを次は意識してやっていました。すべて自分の狙いとしてやって、それがきちんと評価を得ることが大事だと思っていたんです。

秋:講評を、自分の制作の答え合わせみたいな感じてやっていたんですね。

芦:そうですね。あと苦しんだわけではないんですが、、夜間部には美術科の高校に通っている子もいて、その子たちは自分よりも早い時期からデッサンなんかを始めていたので、そこにどうしても埋められない時間の差はあるなと思っていました。でも、そんなのは言い訳にもならないし関係ないなって考えて、絶対にこの中で1番になってやる!って思っていました。

秋:初めてどばたに来た時の話といい、逆境に置かれると凄く燃えるタイプなんですね!笑

芦:そうかもしれません笑笑。

秋:どばた以外のところでやっていたことは何かありますか?

芦:特に変わったことはしていないですが、、スマホで自分の作品の写真を撮って記録していました。自分の成長を実感するために休日に振り返ったりしていましたね。
あとは通学中に電車の中で解剖学の本なんかも読んでいました。その知識やデッサンで学んだことが、趣味の絵にもつながることもありました!

秋:受験勉強で終わらずに、自分のやりたいことにきちんと生かされたいたんですね。
ちなみに藝大の試験ではいちおう学科も見られますが、どうでしたか?

芦:学科は、、英語があまり得意ではなくて笑。その分をもともと得意だった国語と、好きだった世界史でカバーするようにしていました。

秋:3教科の合計で考えていたわけですね。
ここまで、いろいろ受験のことを聞いてきましたが。最後に、1年後に藝大を受験するひとに向けて何かアドバイスはありますか?

芦:わたしは現役で合格したので、主に高校生に向けて。。
高校生はとにかく時間がないと思います。何年かやっている浪人生相手に1年後に戦って勝つには、よく言うスランプや不調に陥っている時間もないです。
昨日よりも今日、今日よりも明日という感じで、成長していければいいと思います。今回ダメだったけどまぁいいや、ではなく、その時にできる最大限のことをやればいいと思います。
そうすれば、浮き沈みなんて起こることなく、常に伸びていく“合格への軌道”が描けると思います!!

秋:芦澤さん、本当にありがとうございました!!
受験生の皆さん。とても貴重で、ためになるお話が聞けたと思います。1年後の自分の姿をしっかりイメージしていけるといいですね!

 

芦澤さんの合格体験記はこちら→「ここから、つづく」
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彫刻科 2020

2020年4月20日(月)〔彫刻科